エボラウイルス病(EVD)の確定診断・治療支援・退院決定のための検体検査をウイルスを不活性化しないウイルス分離法によって行えば、ウイルス有無の測定に数日(一週間以上)かかるだけでなく、感染の危険性があるので、感染研村山庁舎の老朽化BSL4施設の稼働やBSL4施設の新設が必要となる。コンゴのEVD患者データの分析では「治療開始が1日遅れると死亡率が11%増加する」ことが示されているが、検体検査に数日を要するウイルス分離法は一刻を争うEVD治療現場での有用性に疑問がある。
海外のEVD治療現場での検体検査は、ウイルスの遺伝子を高感度かつ短時間(数時間)に検出するRT-PCR法によって行われている。RT-PCR法は、確定診断や退院決定に必要なウイルス有無の測定だけでなく、治療支援での治療・薬剤効果の判定に必要なウイルス量の増減も測定できる(リアルタイムRT-PCR法)。RT-PCR法は、検体処理過程の最初にタンパク質分解酵素を混入し、ウイルスの被膜を分解して遺伝子を検出する。被膜の分解によってウイルスは不活性化され感染の危険性が消滅するので、RT-PCR法はBSL3・BSL2施設で実施できる。
村山庁舎での確定診断のための検体検査も、8号棟のBSL4施設を使用せずに、同棟にあるBSL3施設を使用してRT-PCR法によって行われている。ちなみに、村山庁舎BSL4施設の安全キャビネットは市販の検査機器を用いるRT-PCR法による検体検査に不適なグローブボックス型である。
BSL3・BSL2施設は大学、独立行政法人、企業の研究所などが多数保有しているので、患者が収容された特定・第一種感染症指定医療機関に近いBSL3・BSL2施設において(派遣)検査員がRT-PCR法による検体検査を行えば、検体の輸送時間が大幅に短縮され、確定診断や継続的治療支援が安全迅速に実施できる。国際医療研究センターに収容された患者の検体検査は、近くにある感染研戸山庁舎のBSL3・BSL2施設でRT-PCR法により行うべきであるが、現在のところ、患者の検体は警視庁の厳重な監視下に置かれ、首都高・一般道を2台のパトカーで村山庁舎へ輸送される。
検体の採取時にウイルス不活性化処理をすれば、検体輸送が安全かつ簡便に行える。エンベロープを分解する不活性化処理によって不安定なRNA型遺伝子が輸送時間内に劣化する可能性があれば、検体採取時にエンベロープを保存する方法で不活性化処理を行い、RT-PCR法による検体検査時にエンベロープを分解すればよい。
長崎大と東芝が共同開発したエボラ感染検査のための迅速(30分)検査キットがアフリカの治療現場で試用され、RT-PCR法による診断結果と100%一致する精度が確認された。2015年4月には、日本政府がギニアに迅速検査キットを供与した。国内でも、患者の収容病院で迅速検査キットによる応急的感染検査を行えば、パニック対策や二次感染対策をさらに迅速に講じることができる。
コメント
コメント一覧 (5)
RT-PCR法は立派な確定診断だったんですね。やっぱりかと思いました。
RT-PCR法は、確定診断や退院決定に必要なウイルス有無の測定だけでなく、治療・薬剤効果の判定に必要なウイルス量の増減も測定できる。
は素晴らしい説明です。目から鱗が落ちました。
感染研の確定診断(エボラウイルス病とする)法は感染研HP(エボラ出血熱とは、病原診断)に4通りが記載されています(下記の転載記事)。
「血液、咽頭拭い液、尿がウイルス学的検査材料である。迅速診断として、ウイルスゲノムのRT-PCRもしくはリアルタイムRT-PCRによる検出法、ウイルス抗原検出ELISAによる検出法がある。抗体の検出法としてIgG-ELISA、IgM-捕捉ELISA、 間接蛍光抗体法がある。血液、体液等からウイルスを分離するのがもっとも確実な検査法であるが、通常1週間以上を要する。国立感染症研究所ウイルス第一部第一室(村山庁舎)がEVDを含むウイルス性出血熱の検査を担当している。 次のいずれかが満たされた場合、エボラウイルス病(EVD)とする。
●被験検体からエボラウイルスが分離された。
●被験検体からRT-PCR法でエボラウイルスゲノムが検出された。
●被験検体から抗原検出ELISA法で,エボラウイルス核蛋白が検出された。
●間接蛍光抗体法またはIgG-ELISAで判定された急性期と回復期に採取されたペア血清のエボラウイルスの核蛋白に対する抗体価が、4倍以上の有意に上昇した。」参考文献「エボラ出血熱診断マニュアル」
RT-PCR法がBSL2レベルで実施できることは感染研文献「IASR Vol.26 218-221」の末尾に明記されています。
RT-PCR法は、確定診断や退院決定に必要なウイルス有無の測定だけでなく、治療支援での治療・薬剤効果の判定に必要なウイルス量の増減も測定できる(リアルタイムRT-PCR法)
なっておりますが、どこかに根拠となる参考資料、情報がおありでしょうか?
感染研村山庁舎や長崎大学は市民の質問に対して、上記の判定や測定についてBSL-4施設でないと出来ないことを強調します。ここの解説読むと、血液から分離したウイルスを不活化することでBSL-3、2でも利用可能なら一週間以上要する分離法ではなく、簡単なRT-PCR法を選択した方が賢い気がします。感染研村山庁舎や長崎大学の回答はBSL-4施設の必要性の為でしょうか、疑問が膨らみます。
記述文言は多くの資料から抽出したもので、対応する当時の資料は保存していませんが、疑問点はネット検索で調べられると思います。
今、手元で見つけた関連資料を書いておきます。
「わが国のフィロウイルス感染症(マールブルグ病とエボラ出血熱)の検査システム」http://idsc.nih.go.jp/iasr/26/306/dj306g.html
「エボラ出血熱診断マニュアル」http://www.nih.go.jp/niid/images/lab-manual/ebora_2012.pdf
「DNAの量を測る-こんなこともできる“リアルタイム-PCR法」http://www.iph.pref.hokkaido.jp/charivari/2009_04/2009_04.htm
>疑問が膨らみます
感染研も同様の説明を繰り返し、多くの市民が納得し、BSL4施設の強行稼働へと誘導されました。本ブログ『厚労省「ウイルス性出血熱への行政対応の手引き」公開 』に対する1. 森長さんも同様の指摘をされていますので、2.chayakobanの回答を参照していただけると幸いです。
森長さんの質問に気づかず失礼いたしました。
納得いく説明をありがとうございました。
それにしても・・・・・。